ココロとカラダ

本番に「平常心」は必要か。

…コンサートホールには、独特の空気感が漂っているものです。

たとえステージでは何も行われていない状態でも、足を踏み入れた途端、一種の「神聖さ」に触れ、身体や心の状態に変化を感じる方も多いのではないでしょうか。

「場」が持つ力のようなものと、それに反応できる人間の能力には、まだまだなかなか説明がつかない不思議なものがたくさんあるようです。

今回は、そんな「場」で行われる”本番”と”心の状態”の関係について、私の経験を交えて考えてみたいと思います。

 

「本番」は日常か。

「ステージって、非日常の空間なのよね。お客様は日常じゃなくって、そこから離れたものを楽しみにいらっしゃるのよ。私たちは、お客様に日常を思い出させてはいけないのよー。」

学生時代に、声楽(副科ですが)の先生にレッスンの中でそんなお話をしていただいたことを覚えています。

その先生は、きらびやかな声楽の先生方の中でもいつも一際きらびやかで、小柄ながらもとても存在感ある方でした。

「ふーーん。確かにそうだなぁ。。」のんきな学生だった私は、その時は薄っぺらーく(笑)そのお話を表面的に理解しただけにとどまったのでした。

その時はまだ演奏経験の浅い私にとって、本番は十分「非日常」の世界だったのかもしれません。

 

非日常と日常、その境目。

大学を卒業してフリーランス奏者として活動するようになり、ありがたいことに演奏のお仕事も日ごとに増えていきました。

レッスンして、自分の練習して、リハして、本番で演奏して…。

そんな繰り返しが日常となっていきました。それは望んでいた、幸せな日常でもありました。

しかしそれは、かつて”非日常”と呼んでいたものと日常の境目が、自分の中で無意識的に曖昧になっていくことでもありました。

またその反面、

「失敗してはいけない。一音もミスしてはならない」
「失敗したら、仕事が無くなる」
「失敗する私に価値はない」

これほどまでにはっきり言語化することはなくとも、私は自らが作り出すこんな非現実的な「制約」に縛られ、段々とバランスを崩していきました。

 

「落ち着いて、平常心で。」…?

「落ち着いて、平常心でいきましょう。」

本番前、自分にも、生徒さんにも、そんな風に声をかけていました。当然のことだと思っていました。

…でも全然落ち着けない。

思えば思うほど落ち着きとは程遠く、平常心とは一体どういう状態を指すのかすら分からなくなっていきました。

『自分はきっと向いてないのだろう。』そんなことを考えつつも、必死に楽器にしがみつくような日々。

舞台に立っていることがやっと、なことも多々ありました。

これではいけないと、メンタルトレーニングの本を読みあさったり、心療内科の門を叩いたりしてなんとか乗り切っていましたが、どれも根本的な解決には結びつきませんでした。

それもそのはず。私は「本番」が持つ根本的な「事実」を認識できていなかったのですから。

 

「事実」を見る。認識する。

アレクサンダー・テクニークを学び始め、そもそも人間が人前に立つことにおいて起こるメカニズム(緊張、あるいはあがりと呼ばれるもの)について様々な方向から深く知っていく中で、ふと学生時代に聞いた先生の言葉を思い出しました。

「ステージは、そもそも日常の空間ではない。」

…その通りだ。
ステージで、会場で。私たちは演者であっても聴衆であっても、その時は非日常の空間の中にいて、喜びや美しさや悲しみや怒りや、そんな様々な感情に直接触れるような体験をしている。

それらを発信する立場の人間が、まるっきり「平常心」であることは、もう既に事実にそぐわない。

興奮してていい。
高まっていてもいい。
…むしろそれらを大いに歓迎する。

こんな風に理解が深まっていくたび、私は「日常」と「本番」の境目を、うまく繋げることができるようになっていった気がします。

……。

それにしても、せっかく大切なことを教わったのに、それを理解できるのにこんなに時間がかかるとは(笑)。出来の悪い生徒でごめんなさい(笑)。

でも、そんなものなのかもしれませんね。(←正当化。)

 

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