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あるヴォーカリストAさんとの、オンラインレッスンでのこと。

画面に映るAさんは、いつもより少しお疲れの様子に見えました。

「ごめんなさい……今日ちょっと、疲れてしまっていて。」
せっかくのオフの1日を、ある習慣的な行動に費やしたことであまり有意義に過ごせなかったとのことでした。

たっぷり時間がある日ほど、その1日を無為に過ごしてしまうことってありますよね(私もそうです……)。

限りある時間を、どう過ごすか。

今回はそんなことについて。

 

謎のモヤモヤ

詳細は割愛しますが、それは仕事場で起こったあるトラブルに対する行動でした。

お聞きしたところ、それ自体はご自分のためでもあり、他の誰かのためでもある、純粋な正義感からの行動であり、決して悪いことではありません。むしろ、何か納得できないことに対して行動したり声をあげるということは非常に勇敢な行為であり、大切なことだと思います。

……なのにどうしてこんなに疲れて、モヤモヤしているのか。

そこで、今日は歌うことについてのレッスンの前に、いくつか問いかけをしてみることにしました。

 

自分への問いかけ

「今日の朝に時間を巻き戻せるとしたら、何がしたいですか?」
「え?……あぁ私、本当はいま勉強していることについての本を読みたかったんです。すごく読み応えのある本で、1日じゃとても読みきれないんですけどね。……それから夜は料理をして、それを家族とゆっくり食べて。そうしたらきっともっと充実した気持ちになっているから、その後も別の勉強をしようと思っていると思います。」

「そうだったんですね。……それで、今日すでに選んだ行動は、ご自分の何を満たしてくれたでしょうか?」
「何を満たしてくれた……?そんなふうに考えたことなかったですね、面白い……。うん、何かしてあげたい、悲しい思いをする人を減らしたい、という自分の正義感を満たしたかったんですね。自分がよくやってる行動だと思います。」

「そうなんですか。それで、その思いは満たされましたか?」
「いいえ……そして、それをしてもただ疲れるだけだということも、どこかでもう分かっていた気がします。結局私は、ただ自分の気を済ませたかったんだと思います。」

「いま現在の自分が、今まさにその行動をしようとしている自分のところに行けるとしたら、何て問いかけますか?ここで、もし良かったらアレクサンダーを使ってみるのはどうでしょうか。頭が動いて、身体全部がついてきて……どうぞ。」
「 “それして、どうするの?”
“……それで、スッキリするのかなぁ?”
“やっぱり、疲れるんじゃない?”
……あぁ、なんだかスッキリしてきたし、身体が緩んでラクになってきました。アレクサンダーってこんなふうにも使えるんですね。」

 

俯瞰する「自分B」 を育てる

これはもちろん、Aさんが今日選択した行動自体がどうという問題ではありません。
ただ、自分の大切な時間を”自分のために”どう過ごしたかったか。
外部からの刺激や、習慣的な行動に流されることなく、自ら何を選択できたのかどうか。

これはアレクサンダー・テクニークを学ぶ上で培えることのひとつでもあります。

今に気づき、選択のための”間”を持つこと。

レッスン中に落書き(おい笑)したものに、少し書き加えてみました。

アレクサンダー・テクニークを学ぶと、習慣やいつものパターンに無意識に瞬間的に猪突猛進していく自分A自分Bが気付き、優しく「間」を与えてくれます。
そしてここであらかじめ用意していた選択肢をあらためて選び直したり、新たな選択肢を創造したりすることができます。

このプロセスは、今回のようにたくさん時間をとることもあるし、ほんの一瞬だったりもするし、習熟してくるとほぼ同時進行であったりもします。
(図も含めて、これらはあくまで私の中での一つの解釈です。)

そもそもこういったプロセスは演奏をはじめ、何らかの技術を高めていく上でも同じようなことが起こっていると思いますが、私はアレクサンダー・テクニークを学んでいく上でこの「自分B」を意識的に大きく育てていくことができると考えています。

「これなら、そのうち声が出そうな気がします。」

画面の向こうのAさんは、先ほどよりもずっと生き生きとして見えました。

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