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『なぜそんなにスケール(音階)練習をするんですか?』

インタビュアーにそう問われた、あるヴァイオリニストの答えが当時の凝り固まった私の脳内を打ち砕き、鼻血が出そうになったのを覚えています(笑)。

スケール練習を始めとした基礎練習によって、育まれるものとは何か。

今回は、そんなことについて。  

大切な前提。

もうずいぶんと以前のことですが、とある公営放送で若いヴァイオリニストのドキュメンタリー番組が放映されていました。

他の部分は全く覚えてないのですが、あるインタビューの一問一答が当時の自分にとってとても衝撃的で、その部分だけは今でもはっきりと覚えています。

***

—『なぜそんなにスケール(音階)練習をするんですか?』

そのヴァイオリニストは、その問いに対してさらりとこう答えていました。

—『あぁ、(やっておかないと)感性がにぶるんです。』

***

・・・!!!
・・・感性が!!!!
・・・にぶる!!!!!!!!

1000回ほど膝打ちしたくなる気持ちでした(笑)。

そのあまりに音楽的な答えに感銘を受けて、その後レッスンでしばらく生徒さんたちに「音階練習とか、基礎練習っていうのはですねぇ…」とまるで自分の言葉のように言いふらしていたことを覚えています(笑)。

音階練習をはじめ、自分がルーティーンとして取り組んでいる基礎的な練習には、当然それぞれに様々な意味があります。

ロングトーン、タンギング、そしてスケールやアルペジオ…それらは毎回同じ内容であっても、それが持つ意味や目的は、自分の段階や状態によって変化していくのでしょう。

しかしその様々な意味や理由、目的の前に、「大きな前提」をシンプルな言葉で自分の中に持っていることは、自分を毎日の練習に向かわせる上でとても大切なことだと思います。  

 

理解と言語化。

様々な音階練習(分散和音も含んで考えています。)を毎日繰り返すのは、磨いてきた感性をにぶらせないため。

そしてそれはまた、感性を研ぎ澄ませ磨いていくために、様々な音階練習を毎日繰り返すのであるとも言えます。

これは音階練習に限らず、すべての基礎練習にも当てはまるでしょう。

このインタビューを受けていた当時のそのヴァイオリニストは、おそらくまだ10代だったと思います。

若い生徒さんたちには、ある程度のルーティーンを定着させる必要があります。
しかしその時も、ただ単にお決まりのもの・伝統的なものとして与えるだけでなく、その一つ一つの意味や理由について常に考え、理解し、それらを彼らの言葉によって言語化しておくのは、指導者としてとても効果的なことだと考えています。

そんな習慣がついていれば、音階練習を始めとした基礎練習が 「つらいもの」 「退屈なもの」 「覚えなければならないもの」 「できていなくてはならないもの」 「やっておかななければならないもの」 でなく、 「いつも異なる意味のあるもの」 として、彼ら自身が自由に創造していけると思うのです。

そしてそれらは、それぞれの個別の練習の時点では点と点であったとしても、自然に繋がりを持ち、実際の曲での演奏表現に生かされていくのでしょう。

私はかつて、音階練習と実際の曲の練習との間でとても苦しんだ経験があります。
音階練習では難なく出来ることが、曲になった時になぜか全くうまく生かされない…ということが長く続いた時期があったのです。

…きっとその時の私には、「音階練習」と「音楽」との間に大きな乖離があったのだと思います。  

 

すべては音楽のため。

さて、「感性」とはそもそも何かというと、

かん‐せい【感性】
物事を心に深く感じ取る働き。感受性。「感性が鋭い」「豊かな感性」
外界からの刺激を受け止める感覚的能力。カント哲学では、理性・悟性から区別され、外界から触発されるものを受け止めて悟性に認識の材料を与える能力。
—小学館『大辞泉』より

だそうです。

彼の言葉を借りれば、音階練習とは「物事を心にさらに深く感じ取る働きを高めること」や、「外界から触発されるものをさらに知性として認識するため」…つまりは、「様々な出来事をさらに深く細やかに感じとり、またそれらを音や音列として表現する技術(=身体の動き)を会得して磨き続けるため」と言えるでしょうか。

私が学んできたアレクサンダー・テクニークでは、

「望み(目的)→観察(現状)→分析→仮説→実験→検証→信頼できるプラン」

このようなプロセスをたどりながらレッスンを進めていきます。

ここで大切なのは最初の「望み」の部分を明確にしておくこと。
そうすることで、よりスムーズに「信頼できるプラン」に辿り着くことができます。

音階練習を始めとする基礎練習も、その「望み(目的)」をいつもできるだけシンプルで明確な言葉にして、自分に投げかけつつ取り組みたいものだなぁと思っています。

 

・・・でも今日もつい無意識に「苦手なスケール」からやっつけようとしてましたけどね。。。  

 

 


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