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先日レッスンにいらっしゃったあるピアニストさんから、こんなメッセージが届きました。


“先日はレッスンをありがとうございました!
難しいエチュードを弾いているのに
身体がふわりとそこにいて
なんだか夢の中(もしくは空想)みたいな感覚でした。
背中に羽が生えた気分。

そして、「身体はどこから曲がるか」という問いに「腰」と思わず答えた自分の
腰に対する執着?にも気付かされました。
本当に、私は人生の多くを腰に背負わせていたのかもしれません。

演奏には、その人の全てが本当に詰まっているんですね。
また違った意味でそう感じられて嬉しいし
いまの演奏が愛おしいし
わくわくしてきました!
ありがとうございました(^ ^) “


(ご本人からご承諾を得て掲載しています。)



この方は大変ご活躍されているピアニストさん。

私も何度も演奏を聞かせていただいているのですが、それはそれはいつも素晴らしく、またすごく幸せそうに弾かれる方なので、レッスンのご依頼をいただいた時は、

「え、悩みとか課題なんて……あるのかなぁ……」

と、つい大変失礼なことを考えてしまいました(笑)

音楽家であるかぎり、誰であっても、どこまで行っても、演奏への探究に終わりはないものですよね。


さて、レッスンのテーマは「右手の親指について」。

弾いていると、右手の親指あたりが痛くなることがあるそうで。
少し前に身体の他の部分にトラブルがあり(治療済)、それが何となく影響しているような気もする、とのことでした。

ともあれ、まずは演奏時の動きを見ていきます。

このとき見ているのはその人全体の動きなのですが、特に頭~脊椎の動きとバランス、そしてピアノを弾くために必要な動きやそのプロセスとはどの様なものか、またどんな可能性があるか……などを見ています。

ここで、「まさに今、演奏に入る」瞬間に起こっている動きが、
繊細な動きを指先に伝えることと、
腕の動きによる重心の変化に必要な「股関節の動き」を妨げているように見えました。
(誤解を招く恐れがあるため詳しい記述は避けますが、骨盤と腰椎付近(腰のあたり)の動きです。)


まずはその動きが物理的に起きにくい位置に椅子を移動してみます。

その上で、アレクサンダー・テクニークの基本的な考えをお伝えし、腰のあたりの動きについて観察しながら、少し私が動きをサポートしつつ再び弾いていただきます。
(ここで実際は様々な観察と実験を繰り返しています)

【関連記事】
「頭と脊椎の優しい関係。 その1」
「頭と脊椎の優しい関係。 その2」


「……すごく弾きやすい!……でもすごい変な感じ(笑)!」

「親指、どうですか?」

「あー、そういえば全然気にならないです。」


・・・・・

「……私は、弾こうとする時に何をやっていたのかなぁ。。」

『まさに今、演奏に入る』
このときの動きを、なぜやっているのか。

それは、分かりません。

“正しい姿勢”や”美しい姿勢”だとされているものであったり、先生や憧れのプレーヤーがそうやっていたのを無意識に真似ていたり、そうして弾くことで上手くいった経験があったのかもしれません。
いずれも、それらは悪いことではなく時間とともに培われたものであり、学んできたものでもあり。その人の歩んできた歴史そのものなのだと思います。

新しい動きを手に入れるためには、これまでの動きや原因を追求するのでなく、それらを一旦手放して、とにかく丁寧に新しい動きをひとつひとつ選んでいくこと。

そんなことをお話ししてレッスンを終えました。

実はこのとき、この生徒さんからは「腰」についてのお話は直接お聞きしませんでした。

いただいたメッセージに書かれている「腰に対する執着」が果たしてどういったものであったのかは分かりませんが、新しい動きを生徒さんが探求されている間に、自らそのことに気付かれたのでしょう。

このようにどんどん「自分についての気付き」が深まることは、アレクサンダー・テクニークを学ぶ上での大きな恩恵のひとつだと思います。

それでちょっと(……いや、ちょっとどころじゃないな笑)辛くなることもあるのですが。

でもそんな部分もひっくるめて自分を受け入れ、次のステップへ進んでいく。

生徒さんからのメッセージの最後のこの部分から、私自身が学ばせていただいたように思いました。

“演奏には、その人の全てが本当に詰まっているんですね。
また違った意味でそう感じられて嬉しいし
いまの演奏が愛おしいし
わくわくしてきました!”

・・・・・

この記事を書いた後、ご本人に確認のため原稿をお送りしました。

そして再び貴重なメッセージをいただきましたので、ここに追記させていただきます。

”……繰り返し読んでしまいました。

最初、緊張していたのですが
レッスンの時間の流れと
身体から来る自分の感覚と
思考の流れが
鮮明に蘇りました。

愛子さんにレッスンをお願いすることを躊躇う理由はなかったのに
単純に日々の中で改めてレッスンをお願いするという一歩をなかなか踏み出せず
でも、すぐお引き受けいただけて
とても感謝しています。

愛子さんが教えてくれた言葉がいまとっても
そして、きっと一生
(もしかしてピアノが弾けなくなったとしても)
暖かく私の背中を押してくれます。
あんなに嬉しい言葉はありません。

愛子さんの声と手の感覚が
いまも弾いていた体感の変化とともに
耳の奥の方と身体の奥の方に残ってます。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。”

アレクサンダー・テクニークとは一体何なのか。
よく問われることでもあります。

私の今の見解として、アレクサンダー・テクニークとは、
ただひたすら
ただひたすら
自分自身を見るワークです。

これが正しいとか、間違いとか、そんなジャッジの目線ではなく、
何が起こっているのか、そして何が起こるのか、
その全てにただ好奇心を持って、ひたすらに自分自身の奥深くに光を当てていく。

長く演奏に向き合ってきた音楽家が、あらためて違った角度から自分自身を丸ごと見つめるというのは、彼女がおっしゃるようになかなか簡単なものではないと思います。

そこを勇気を持って踏み出し、音楽と自分、そして演奏するということについて深め続けたいと願う音楽家に、心より敬意を表します。

 

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