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アレクサンダー・テクニークの中で大切にされている考え方の中に「心身統一体」というものがあります。

「心と体はいつも結びついていて、切り離せない」というものです。

今日は、そんな「心(思考)が体にどう影響を与えるか」について考えてみたいと思います。

 

子供の頃の記憶。

5歳の頃。

私は生まれて初めて「ピアノの発表会」というものを経験しました。人生初めての「本番」です。

それまでたくさん練習をして、楽譜を見なくても弾けるようになって、いよいよその日が「本番」であることもよく理解していました。

「本番」の日は、朝からドキドキして落ち着かず、なんだか気持ち悪くて朝ごはんもしっかりと食べられませんでした。
父が運転する車に乗って会場に着くまでの間もどんどん気持ち悪くなり、両親に「気持ちが悪い」と訴えました。父がその時「へー、こんな小さい子でも”きんちょう”するんだなぁ。」と言ったことをよく覚えています。

「きんちょう?こういうのを”きんちょう”というんだなぁ。」

そんな風に思ったことも、なぜか鮮明に覚えています。
アドレナリンがしっかり出ていたんですね。
いたいけな少女愛子は、生まれて初めて”きんちょう”を知ったのでした(笑)。

リハーサルを経て、本番。
「よし、がんばるぞ」と意気込んで袖にスタンバッたその時、優しい優しいピアノの先生が私の両肩に優しく手を置きながらこうおっしゃったのでした。

「愛ちゃん、お客さんはね、みーんな野菜と思えばいいからね。」

『…えっ。。やさい。。。おきゃくさんは、やさいじゃない。。。』

少女愛子は、大混乱のまま初めての本番の舞台を踏んだのでした…。

 

非現実な思考と身体の関係。

感じたことのないフワフワした感覚。
いつものように動かない指。
うちのとは違う大きなピアノ。
まぶしいライト。
「おきゃくさんは、やさい。」

大変な大混乱の中、小さなミスはあったものの無事演奏を終えて舞台を降りた後も、しばらく放心状態だったことを覚えています。

「お客様は野菜」

人を物と捉えることで緊張を抑えようとしてよく用いられる言葉ですが、これは現実とは異なる、非現実的なことです。
体に非現実的なことをさせようとすると、必ず固まります。

例えば、「このジャンケンに絶対勝つ!」
こんな風に考えると、少し体が固くなりませんか?絶対勝つのは不可能ですね。
あるいは「間違えたらどうしよう・・・。」
こちらも固くなりますね。そもそもこれも現実でなく「まだ起きてない未来」を考えています。

こんな風に、思考は体の動きに密接に関わりあっています。
だからこそ、演奏する上で普段からどのようなことを考えるのかが非常に重要になってきます。

 

動きやすい言葉。

さて、演奏とは非常に大小様々な繊細かつダイナミックな動きを伴う、高度に訓練された活動です。

本番のステージで、これまで培ってきたものを全て惜しみなく発揮するには、この「活動」がより自由に柔軟に行われる必要があります。

その中で「現実でない思考=体を動きにくくする思考」は全く役に立たないでしょう。

どんな言葉が自分を動きやすくするか。
それについてはきっと人それぞれで、それぞれが創造的に考えていく必要があるのでしょうが、一つオススメな目安が

『現実的かつ、超具体的であること。』

 

「伝えたいイメージ・ストーリーはどんなもので、登場人物は誰で、どんな背景を持ち、どんな季節で、どんな服装で、それはどんな感触で・・・?(ストーリーは非現実であっても、より具体化現実化していく)」
「それを伝えるために、楽器をこう持って、腕がこう動いて自分に近づけて、ここで息をこう吸い、ここでこう口を閉じて、舌の位置はこうして、このタイミングで唇が振動して・・・」
「ブレスはここで口をこう開いて、お腹は緩めて、そして再びこう口を閉じて・・・そんな中でもストーリーはこんな風に展開して、今こんな場面で・・・」

…忙しいですね(笑)。

でも全てが綿密でリアルで、動きのプランに満ち溢れています。この中に「非現実的なもの、体を固まらせるもの」が介入する余裕はないと思います。

現実的かつ、超具体的な動き・演奏のプランで自分を満たしていくこと。

その思考が、どのような動きをもたらすか。

ぜひ、お試しくださいね。

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