オーディション。その向こうにあるもの。
「近々、団内オーディションがあるんですよ…。団員と、指揮者と音楽監督が審査員なんですけど。もう怖くて怖くて…。試練です。」
いつもと違って、とても悲痛な表情でレッスンにいらっしゃったあるオーボエ奏者さん。
演奏とは、はっきりと「点数化」「数値化」することはとても難しいものですし、そもそもそういったことには向いてないものです。
だからこそ「合否」がはっきり決まるオーディションは、通常とはまた違うプレッシャーを伴うものになると思います。
今回はそんな「オーディション」について。
呼吸のコントロールを損なう動き。
「いつもの本番と同じように吹けばいいと、分かっているんですが。。」
お話を伺うと、その団体では長く”首席”という立場にいらっしゃるそうです。
周りからは『受かって当然』と思われているそうで、それがまたプレッシャーだとのことです。
「受からなきゃ、受からなきゃと、どこかで思ってしまっているんですよね…。審査員がよく知っている人たちだからこそ、失敗できないとも。」
お話しされながら、どんどん顔色も悪くなっていきます。
「ひとまず、オーディション本番だと思って吹いてみましょうか。」
「はい…。やってみます。」
そうおっしゃりながら水につけていたリードを試し吹きして、楽器に装着する過程で、胸椎のカーブが失われ、肩甲骨どうしが引き寄せられる動きが起きていました。
こうなると呼吸の、特に吸うことに対する動きが損なわれやすくなります。
オーボエは、その唄口が小さいことからも、その材質や構造の上でも、非常に繊細な息のコントロールを必要とする楽器です。
フレーズの出だしがうまくいかず、何度か吹き直しながら演奏してくださいました。
「もし実際こうなってしまったら…。。なんでもないフレーズなのに。」
「一回、楽器を置きましょうか。」私は、いくつか質問をしてみることにしました。
自分の”自分への評価”。
「受かって当然、受からなきゃ、失敗できない。いま演奏する前にそんな言葉が出てきましたが、それらについてはどう思いますか?」
「しんどいですね。とにかく不安で、気づけばそんなことばかり考えてます。審査員に、そう見られてるんじゃないかと思ってしまって。」
「受かって当然、吹けて当然って?」
「はい。。誰もそんなこと言ってないんですけどね。」
「…ですよね。それって結局、“自分が自分をそう見ている”ということと繋がりますか?」
「あー、そうだと思います。まさに。」
不安なほうに思考が流れるのは、人間の遺伝子に刷り込まれたいわば本能なので、それを「考えない」のはちょっと無理があります。そんなことをお話ししながら、別の質問をしてみることにしました。
「で、このオーディションに合格すると、どんないいことがあるんですか?」
「えっ!それが、今度の定期演奏会でのプログラムが超イイんですよ!首席になると、そのソロが全部吹けちゃうんですよ!」
表情がパッと明るくなるのでした。
「へー、それでそれで?」
「いやーもうずっとやりたかった曲ばかりで。そのために衣装も新しくしたんですよ!考えるだけで心躍ります(笑)。早くオーディション終わらないかな。。」
大きな目的へ。
「それを考えまくって吹いてみたらどうなるでしょうね?」
「え?ええ。」
「オーディションの目的って、そっちですよね。じゃあ、不安が来たらもっとそっちの“本来の大きな目的”の方を膨らませてみたらどうでしょう。」
ここで呼吸に役立つ動きの提案をした上で、その方が呼吸のコントロールがスムーズにできるよう少し手を使ってサポートしながら、もう一度演奏していただきました。
「…あぁ、これならできそうですね!」
演奏の評価は審査員それぞれの感性の役割であり、そこに自分は介入できないこと。
不安に襲われても、自分は「本来の大きな目的」にいつも戻れること。
自分ができることとできないこと。そんなことを確認して、レッスンを終えました。
演奏がなまものである以上、不安は消えないものです。
でもその時に、「何を考えるか」「何を考えたいか」をあらかじめ用意しておく、またはそういった習慣をつけておくのは、自分を「本来の目的」に向かわせるために、とても健康的な方法だと思います。
これも、「練習」が要りますね。。(私も練習します。。(小声)。。)
レッスンのご案内
所属する「Self Quest Lab(セルフ・クエスト・ラボ)」でグループレッスンやセミナーを開催しています。
詳しくは専用サイトをご覧ください。
(個人レッスンはこちら)
メールマガジン発行しています!
こちらのメルマガでは、最新ブログ記事を始め、レッスン&セミナー情報などをいち早くお伝えしています。
下記のバナーをクリックして、ぜひご登録くださいませ!