共演者の視線。
「これを今日、ここでお話しすることは、本当に勇気が要ります…。」
かなり思いつめた様子で、その管楽器奏者の方は話し始めました。
「共演者とか指揮者の視線が、ホントに怖いんです…。思い込みだと、分かってるんですけど。」
共演者。共に音楽を作り上げる、大切な仲間。
しかしオーケストラや吹奏楽ともなると、それはまさに「小さな社会」となります。
この「小さな社会」で辛い経験をしたことがある方も、少なくないでしょう。
今回はそんな「共演者の視線」について。
過去のトラウマ。
「とにかく、ちょっと指揮者につかまったりするともうダメでですね。他の人たちにどう思われてるか、迷惑がられてるんじゃないかとそればかり気になってしまって、肝心の指揮者からのオーダーがきちんと聞き取れないくらいに萎縮してしまうんです。…本末転倒ですね。」
…誰にでも少なからず、そんな覚えがあることではないかと思います。
私は、自分自身にも過去のエピソードが蘇ってきていることを自覚しつつ、少し震えながらもお話を続ける生徒さんの声に耳を傾けました、
「学生の時に、授業で指揮者の先生に執拗につかまった子がいたんですよね…。”お前のせいでみんな迷惑してるんだ!” “これで逃げられると思うなよ!”って、私を含め、聞いてるほうがもう恐怖におののいてましたね。…貧血になっちゃった子もいて。合奏になると、その時のことがフラッシュバックしちゃうんですよ。こういうの、トラウマっていうんでしょうか…。」
多くの人の前でそのように罵倒する、というのは、昨今ではモラハラあるいはパワハラとされ、すでに論外のことです。もはやそのような指導者はいないと思いますが(思いたい…)、このような「恐怖体験」はなかなか消えないものです。
「合奏」というシチュエーションが、その時の記憶を呼び覚ますのも無理はないことでしょう。
「過去」と「現在」を切り分ける。
過去のことを話すとき、体も一緒に過去の出来事に反応するものです。
生徒さんの手足が震え、少し呼吸が荒くなってきたので、私は少し生徒さんの頭や首、肩のあたりに触れました。
(アレクサンダー・テクニークのレッスンでは、教師は生徒さんに触れることで動きのサポートをします。)
「ちょっと、戻ってきましょうか。」
「あぁ…ちょっとタイムスリップしてました(笑)。記憶って、すごいですね。」
私はこう続けました。
「でも、こうやってすぐに戻っても来れますよね。これが割と大事だなと思ってます。」
・・・特定の状況が記憶を呼び起こすことを理解できていれば、「自分が今、過去の記憶に捉われている」ことにも早く気づけます。
そして、気づくたびに「今ここにいる理由」「今自分がやりたいこと」に戻り続けることができます。
過去に辛い経験、トラウマのようなものがある場合は、このように「自分を俯瞰して見る」というか、「意識の置き場所」について少し意図的に考えることをおススメしています。
そして「早く気づくこと」には、繰り返し練習が必要でもあります。これからは、毎回合奏のたびに練習できますね。・・・
そんなことをお話ししました。
「事実」と「解釈」を切り分ける。
そして「他の人たちにどう思われてるか」「迷惑がられてるんじゃないか」という他者の評価については、もちろん気になるものです。
気にしなきゃいいんですけど、気になるんです!(鼻息)
音楽、という表現は「他者と共有するもの」なのですから。
しかしながら、「他者がどう感じているか・どう思っているか」は分かりようがないものであるのも事実です。(それはもはや神の領域です笑。)
ここで、事実と解釈(“自分が”そう思っていること)を切り分けておくのもとても大切なことです。
【事実】
・今、演奏したいからここにいる
・ただ、より良い音楽を作りたいと思っている
・共演者も演奏したい人たちで、より良い音楽を作りたい人たちである
・ただその同じ目的を持って、今演奏している
【解釈】
・下手だと思われている(のではないかと”自分が”思っている)
・迷惑だと思われている(のではないかと”自分が”思っている)
・邪魔していると思われている(のではないかと”自分が”思っている)
・
・
・
生徒さん「・・・こう整理してみると、楽になりますね。…っていうか、面白い(笑)。自分にツッコミたくなりますね(笑)。」
過去の体験や、苦手な状況について、こんな風に一度手のひらの上に乗せて考えることはとても億劫だし、疲れるものでもあると思います。
しかし、心と身体に余裕があるときにこんな風に整理してみることで、もっと音楽そのものに気持ちを向かわせることができそうです。
信頼する仲間と取り組んでみるのも、良いかもしれません。
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