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アスリートの世界ではよく「ゾーンに入る」という言葉が聞かれます。

この「ゾーン」とは、集中力が極限に高まった状態のことを表すのですが、詳しく言うと

・時間がゆっくりに感じられ、ボールなどの動きが止まって見える
・感覚(視覚・聴覚・筋感覚など)がすごく敏感になり、体が普段より思い通りに動く
・自分の周囲にも敏感になり、周りで何が起こっているかをすべて把握できている
・自分を俯瞰して見ることができる
…などなど。

…う、うらやましい。。。

しかし、演奏する上でもこの「ゾーンに入る」という現象がたびたび起こっているとも言えます。

また「ゾーンに入る」とまでは言えなくても、誰でも一度は本番で「素晴らしくうまくいった!」という経験があるのではないでしょうか。

 

今回はこの超集中状態「ゾーン」に、本番でより近づくためにどういったことを考えていけば良いか、主に神経の働きについて見ていきたいと思います。

 

 

3つ目の自律神経。

以前のブログでも少し触れましたが、人間の神経は主に

中枢神経(司令塔の役割)
・末梢神経(外部からの情報入力、また中枢から筋肉などへの出力)

の二つに分けることができ、さらに末梢神経は

・体性神経(痛みを伝えたり、手足を動かす)
・自律神経(呼吸、循環、消化など身体の調整やそのバランスをとる)

の二つに分けることができます。

そしてこのうちの自律神経は、これまで

・交感神経(活動時に活発になる)
・副交感神経(休息時に活発になる)

の二つがあり、互いに拮抗しながら作用していると考えられてきましたが、さらに近年この副交感神経が主に2種類の系統に分類されるという理論が提唱され(多重迷走神経理論)、現在も発展と応用が進んでいるそうです。

 

それによると、結局のところ自律神経は上記のように「身体の調整をとる」という働きとともに「外界(他者)との関係性への適応」をも担っているということで、それらは

・背側迷走神経系(副交感神経系)
・交感神経系
・腹側迷走神経系(副交感神経系)

の3つに分類されるそうです。

 

 

演奏を司るのは。

…さて!

頑張ってこの3種類の自律神経の働きをざっくりとまとめてみたいと思います。

 

背側迷走神経系
・進化的に最も古い起源を持つ。(魚類)
・心臓・肺・内臓を支配する。
・休息・回復・消化を調整する。
・危機対処もできないような圧倒的な危機状況における不動状態「凍りつき反応(死んだふり)」と関わる。
・「凍りつき反応」により痛みなどの感覚や感情を低下させる。

 

交感神経系
・両生類、爬虫類が起源。
・頭部から腹部まで広く分布。
・運動のため筋肉緊張を高め、危機状況における 「逃げるか闘うか反応」において重要な働きを担う。
アドレナリン(興奮物質)の分泌を伴う。

 

腹側迷走神経系
哺乳類のみが持つ、系統的に新しい迷走神経。
・ミエリン鞘(詳しくはこちらをどうぞ)をもつため、背側迷走神経・交感神経に比べ伝達速度が速い。
顔面・耳・のど周り・気管・肺や心臓に分布する。
・他の個体とのコミュニケーション(社会的役割、絆)に大きく関わる。人間の場合は表情や声、そしてそれに気付き聞き取るというプロセスに関与する。
・心拍数のペースを穏やかに抑制する。

 

…ふー。

 

こんな風に、人間は3つの階層による自律神経を持つわけですが、その時その時の環境に適応するため新しい回路から順に使われていくんだそうです。

すなわち、

①腹側迷走神経系(安全・安心なコミュニケーション状態)

②交感神経系(逃げるか戦うかの興奮状態)

③背側迷走神経系(興奮状態を通り越して凍りつき状態)

というように。

 

…こうして並べてみると、自分の場合「うまくいかなかった本番」の時は見事にこの適応プロセスをたどっているように思います・・・。

逆にうまくいった時は「腹側迷走神経系」と「交感神経系」、両方がバランス良く働いている状態だったのではないかと推測します。

これらは互いに拮抗して働くもののようですが、経験としては「腹側迷走神経系」がメインに働き、そこにうまく「交感神経系」がブレンドされているような、そんな感覚のように思います。

特に管楽器奏者としては、顔面やのど、気管や肺は思い通りに働いて欲しいですし、演奏を伝えるには共演者や観客とのコミュニケーションが欠かせないので、ぜひ腹側迷走神経に大いに働いてもらいたいところです。

 

さて、これが「ゾーン状態」と呼べるものに繋がるかは分かりませんが、恐らく一流のアスリートはこのような状態へ自分を持っていく訓練を、様々なトレーニングを通して行っていると思われます。

 

 

自分自身の力を発揮するために、レッスンで得られること

しかし結局のところ、これら自律神経は残念ながら自分の意思ではコントロールできないものだそうです。

ただ、それらの機能をこのように理論的に理解しておくことは、演奏時の自分の状態を把握することに繋がり、それ以上の過緊張への暴走を抑えることに繋がるでしょう。

 

さて、私が嶋村順子さん(フルート奏者・アレクサンダー・テクニーク教師)と共催するSelfQuestLab(セルフ・クエスト・ラボ)で行われるレッスンは、全てグループレッスンの形式を取っています。

それにはいろんな意味があるのですが(主に個人レッスンよりはるかに経験値が多くなることなど)、本番を疑似体験しながらセルフコントロールをしていくことの実験に大いに役立っています。

 

レッスンがグループで行われることに、私自身、正直最初はとても違和感と恐怖感、そしてある種の嫌悪感がありました。

しかし、レッスンに参加してすぐに、このレッスンがグループで行われることの大切な意味と意義を実感しました。

 

人間は社会的動物です。

社会の中でしか生きられない。

そして演奏とは、その社会の中で行われるものです。

 

自分自身が社会とどのように関わっているか。
他者とどういった繋がりを持って生きているのか。

演奏の現場では、その解釈がある意味、丸裸にされるのだと思います。

 

グループレッスンという小さな社会においても、それがありありと自分の眼前に映し出される。

私たち教師は、安全安心な場を担保しつつ、その小さな「社会」の中で生徒さんが自分自身を深く見つめ、考え、実験し探求する時間を提供しています。

 

改めて、他にない貴重な場であり、時間であると思います。

 

本番で、自分自身にとって最大のパフォーマンスを発揮するために。

私自身、今後もより探求を深めていきたいと思います。

 

参考文献:
「多重迷走神経理論による神経性過食症理解の可能性について」花澤 寿(千葉大学) ISSN:1348-2084
「新訂版 図解ワンポイント生理学」片野由美・内田勝雄(サイオ出版) ISBN978-4-907176-36-5

 

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