教えること

自分が難なく出来たことを、生徒さんにどう伝えるか。


何度かレッスンにいらしてくださっているサクソフォン奏者Oさんから、メールをいただきました。

メールをいただく直前のレッスンでは、「自分自身はあまり苦労することなく出来たことを、生徒さんにどう伝えたらいいか」ということについて一緒に考えさせていただきました。

メールの内容は、その後のOさんのレッスンでの、生徒さんの変化について。

人の身体は構造的には同じでも、それぞれ微妙に異なるものです。また身体の使い方の習慣や、そもそもの身体感覚、そして言葉の受け止めかたまで含めると、一人ひとりそれぞれが本当に個性あふれる存在ですね。

指導する方は、演奏者・指導者としてのこれまでの深い経験から、生徒さんの様子を観察しつつ、ご自身がやっていること、気をつけていること、やってみて上手くいったことなどを生徒さんに伝えていくわけですが、なかなか上手くいかないこともあるものです。……特に、自分自身が難なく出来たことに関しては。

今回はご承諾の上、いただいたメール本文をご紹介しながら、そんなことについて綴ってみたいと思います。

 

ビブラートを遊ぶ。

話題に上った生徒さんはお二人。

まずお一人目は、「ビブラートがなかなか上手くかからない」とのこと。

その場にその生徒さんはいらっしゃらないので、状況を伺いつつ実際のレッスンで”試せること”を考えていきました。

……結果、上手くいく道筋が見えてきたようです。いただいたメールの内容はこちら。


先生にアドバイスいただいた事を早速、実践してみました。


まず、ビブラートは春から大学生の生徒さん。
レッスンで教えていただいた様々な方法(お腹、楽器をゆらす、舌で、アゴで)を試してみました。
アゴは、上下、前後の動きをやりました。
それから、ロングトーンや曲の中でかけてみてもらいました。
色んなパターンで遊びながら試した事が、よりイメージを持つのに役立っているようでした。
先生が、アゴの動きを、顔に手を添えて上下に動かしてらしたのを思い出して、彼女の横でやってみるとそれが一番効果がありました。(何故かツボにハマって笑いが止まらなくなるのが難点ですが笑)
自分で思っているより、アゴが動いてなかったみたいです。
まだスムーズにとはいきませんが、彼女の楽しそうな様子を見て、私も嬉しかったです。

サクソフォンのビブラートは主に下顎の動きを用いるものですが、この生徒さんはなかなか顎を動かすことができなかったとのことです。

私がまず大切にしたかったのは、「ビブラートとは”音が美しく波打っている状態”である」ということ。
決して、顎が動かせていることを指すものではなく(結果的な”手段”がそうであっても)、どんな手を使っても(笑)美しく音を波打たせることができれば良いわけです。

実際、サクソフォンのビブラートは顎の動きだけでなく、喉頭や舌根など様々なところが連動しています。

まずは遊び心を持って、「音が揺れる状態」がどういうものかを体験する。
その上で、下顎がどう動けるのかを探求してみる。
そんなことを提案しました。

文中に“色んなパターンで遊びながら” “何故かツボにハマって笑いが止まらなくなる” とありますが、これらは新しいことを試す上でとても重要なことだと考えています。

「新しいこと」は「未知なること」でもあります。
未知は、人間にとってそのシステム上、恐怖を感じさせるものでもあります。それによって、身体はどうしてもスムーズに繊細に動きにくくなる。
そこで、まずは”出来る・出来ない”の評価を手放し、「どうなるんだろう?」という遊び心、探究心を目一杯持って取り組んでみる。

そんな試みの中で深い自己分析の時間が生まれ、そこから必ず多くの”可能性の種”が見つかると思っています。

 

小さな習慣に気づく。

お二人目は、「左手小指のサイドキーを上手く押せない」という生徒さん。

サクソフォンの左手小指で操作するサイドキーは4つあり、キーについているローラーを小指で上手く転がして操作をするのですが、誰もが最初はなかなか手こずるものです。
多くの人にとって利き手ではない左手、しかも小指を思い通りに操作するというのは、やはりある程度の期間練習が必要になります。(多くのサクソフォン奏者が、右手より左手の小指が長かったりします。手の小さい女性は特に。)

しかしながらその生徒さんは、一つのキーを押すことについても長い間苦心されているとのことでした。

Oさんが事前にその様子を動画で撮影してきてくださっていたので、まずはそれを拝見し、動きに対する様々な提案をさせていただきました。

……結果、この方も動きに改善が見られたようです。いただいたメールの内容はこちら。


そして、今日はテーブルキー(左手サイドキー)が上手く行かない大人の生徒さんでした。
以前、動画を見て頂いた方です。

雑巾を絞ってもらったら、やはり親指と人差し指しか使ってないそうです。
雑巾以外でもそうらしく、先生のおっしゃる通りでした!
すごい〜〜〜!!
手首の回転も意識してもらって、テーブルキーの位置ももう一度丁寧に確認し、低音を吹いてもらうとかなり楽になられたようです。

後ほど、先生にアドバイスいただいた事をお話しすると感動しておられました。
日常的な手の使い方のクセがあったのを、ご自分でも気付かれてなかったのですね。
あんな短い動画を一度ご覧になっただけで見抜かれて本当にすごいです。
アレクサンダーの先生はお医者さんのようですね。

ありがとうございました!

動画を拝見した際に得られた情報としては、その方の楽器への手の置きかた、キーを押す動きから、「普段からあまり薬指と小指を積極的に使っていないのかもしれない」ということ。
このこと自体はただの「使い方」の話であって、良いとか悪いとかいうものではありません。

提案したのは、「ハンカチやタオルなどを雑巾に見立てて、絞る動きを一緒にやってみてください」ということ。

ご自分の小さな習慣に気づき、その動きに新しい可能性を発見をされた時の、生徒さんの様子が目に浮かぶようです。(見たかったです笑。)

・・・・・

「なぜできないのだろう」
「なぜ上手くいかないのだろう」
生徒さんのこんな場面に出会った時、私たち指導者はあらゆることを観察し提案しながらも、上手く導けない自分のことを責めたり、焦ってしまったりすることもあると思います。

そんな時は、生徒さんとともに一度それらを手放して、少し遠回りをしてみる。
「ほかに何が使えるかな」
「”遊び”はどこにあるかな」

レッスン室が”実験室”になったら、さらに自由に自発的に、豊かな表現も生まれてくるのではないかと思っています。

 

 


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