発音とビブラートの不調~サックス奏者とのレッスン~
「主に発音とビブラートなんですが、日によってうまくいってる時といかない時があって……」
サックス奏者とのレッスンから。
“調子の波”というのは誰にでもあるものだと思いますが、その不調の原因が何なのかがある程度クリアになっていくと、その波も多少は穏やかに乗りこなせるものだと思います。
今回は発音のプロセスを丁寧に見ていく中で、その原因を少しずつ紐解いて行きました。
発音の不調はアゴの固まりから
詳しくお話をうかがうと、「不調になるときは練習か本番かは関係なく、アゴが固まってしまって思うように動かなくなる」とのことでした。
本番の緊張により、アゴの動きが固くなると感じる方は少なくないと思いますが、この方の今回の場合は緊張とはあまり関係が無さそうです。
そこで、実際に演奏しているところを観察させていただきましたが……その中で、少し気になる動きがいくつか見られました。
アゴの動きにくさの原因を考える①
質問をしながら、その動きをご本人に観察していただきます。
「この楽器から音が出るまでに必要な手順って、何でしょうね。」
「……? あぁ、楽器を口元まで持ってきて、マウスピースをくわえて……息を吸って……えーっと。。」
楽器から音が出るまでに行なわれる動きはたくさんあるものですが、その一つ一つをあらためて必要な順番に挙げていくのはなかなか手間のかかるものです。
(例えば「歩く」という動作をすべて言語化してみようと思うと……ちょっと気が遠くなりますね。)
「舌をリードに当てるのと、息を吐くのは同時かな……いやいや……」
いろいろと試しながら観察した結果、この方にとっての今回の発音のプロセスは
①楽器を口元まで運ぶ
②マウスピースをくわえる
③必要なキィを押す
④息を吸う
⑤口を閉じる=アンブシュアを作る
⑥舌をリードにあてる
⑦息を吐く
⑧舌をリードから離す
……となりました。
(もちろんこれが唯一の正解ではありません)
とくに⑤~⑧までは、実際は非常に短い時間の中で重なり合いながら行なわれていくので、順番をつけるのは難しい面もありますが、ひとまずこのプロセスで発音していただきます。
……
「あ、クリアになりました!」
私が初めに観察したのは、発音までの動きの流れの中に起きた少しの”混線”です。
発音までに、どんな動きがどんな順番で必要か。
それを一旦整理することで、必要な動きが必要なだけスムーズに行なわれることに繋がるようです。
アゴの動きにくさの原因を考える②
さて、何度かそのプロセスで発音していただき、また新たな動きの可能性を探っていきます。
「息の方向って、どう考えていますか?」
「ネックの方向に向かってまっすぐ前へ!と思ってます」
口は顔の前面にあり、楽器の管はそこから前へ伸びている(今回はアルトサックスです)ので、確かにそのように息は出ていきます。
しかし言い方を変えれば、どのように息を吐いても口から出た息はサックスの管の方向にしか入りません。
私たちが息をコントロールできるのは口までであって、そこから先はコントロール外にあるので、息の方向を「胴体の底から上方向へ」と考えてみることにします。
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ここで、発音のプロセス⑦が「息を胴体から上方向に吐く」に上書きされます。
……
「ラクです!!自然に出られる……!」
アゴの動きにくさの原因を考える③
さらにその上書きされたプロセスで発音して演奏を続けていただきます。
「最初良かったんですけど……なんだかまただんだん動きが固くなります……」
発音のプロセスと息の方向を観察し、必要な動きを明確にしたところで、ここであらためてアゴの動きを丁寧に見ていきます。
アゴの動きには、大きく分けて3つの方向があります。
(ここで取り上げるのはすべて下アゴの動きです。上アゴ=頭蓋骨なので、上アゴの動きは頭の動きとなります。複雑になるので今回は取り上げません。)
・上下の動き
・左右の動き
・前後の動き
この方の場合、発音する時と高音へ移行する時に下アゴが全体に大きく下方向へ動いているように見えました。大きく口を開ける動きです。
サックスのマウスピースとリードの厚み(高さ)はどれくらいあるでしょうか。
誤解を恐れずにかなり端的に言えば、その厚み(高さ)以上に口を開ける必要はないはずです。
音程や音色を主に調整するのはアゴの上下の動きだけでなく、前後の動きや、口輪筋を始めとした表情筋の動き、舌の動きや息そのものの圧力といったものが挙げられます。
この必要以上のアゴの引き下げは、特に下アゴのほうについている舌の自由な動きや、アンブシュアを作る表情筋の動きにも大きく影響します。
そんなお話をしつつも、このアゴの動きについて今回は「息とともにアゴも上に動く、と思ってみる」作戦で試していただくこととしました。
……
「これです!調子いい時の!……そうかー。。」
観察すること
この「そうかー」の言葉の中に、どんな思いが込められているかは分かりません。
ひとつの例として挙げてみますが、アゴのトラブルでレッスンにいらっしゃる方の中で「噛まないように」と考えて吹いている方はかなり多いです。
サックスに限らず、リードを使用する楽器を演奏する上で「噛んではいけない」「噛まないように」というのは半ば常識で、学んでいく上では通らざるを得ないことかもしれません。
では何が必要なのか。
他にどんな動きの可能性があるのか。
答えは無数にあると思います。
それが個性を形作っていくのだと思います。
その上で、自分の身体の様々な動きの可動性や、楽器にとって必要な動きについて、あらためて細やかに観察を深めていくことが、その答えを無数に展開していくことに繋がると思っています。
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