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「チューニングをしているところをレッスンして欲しいんです…そんなの、見てもらえますか?」

サックス奏者の生徒さんからの、ある日のレッスンでのリクエストでした。

実はこのようなリクエストは、そんなに珍しいものではありません。

今回はそんな「チューニング」について。  

 

“チューニング”の記憶。


「自分でも、考えすぎだと思うんですけどね…」

少し自嘲的になりながら、生徒さんはこう続けられました。

「所属する吹奏楽団でのチューニングが、ハーモニーディレクターが出している”B”の音に一人ずつ合わせていくっていう…まぁ良くある方法なんですけど。それがどうも苦手というか、怖くて。……中学の時の吹奏楽部でサックスを吹き始めたんですけど、そこがすごく厳しかったんですよね。同じチューニング方法だったんですけど、すぐ合わせられないと先生や先輩に”音が取れないの?””ちゃんと聞いてる?””時間のムダだから合わせてきて!”って・・・それはそれは辛い時間で。もう何年も経つのに未だになんだか苦手で、それが自分の発音の時の固さにつながっている気がするんです。」

「…よく分かりました。私ももちろん経験がありますが、一人ずつ回ってくるのってイヤですよね。。ではちょっと音を出してみましょうか。」

レッスン室のピアノで私が”B”の音を弾き、生徒さんがそれに続きます。

「キレイに合いましたけど、今日はどうでした?」

「…あぁもう、どうにも体が固まります(笑)。今日は先生だけなんでまだイイですけど、いつもは周りの目も気になってしまって。」

・・・

さて、「音程を合わせる」というのは演奏する上において大変重要であり、必要な技術ですが、それは決して簡単なものではありません。

特に中高生においては、

・楽器の音程の高低を操作する技術
・音程が合っている、またはハモっていることを識別する技術

上のどちらの問題なのか、あるいはその両方の場合はどのような割合で絡み合っているのかを、きちんと見極める必要があります。 (ただ”合わせて”は暗闇でゴールを目指させるようなものです…。)

この方の場合は、どちらの技術もきちんと持ち合わせていらっしゃるのですが、「チューニング」という状況がトリガーになって、全身が動きにくい状態になっていました。

恐怖を体験すると、筋肉がそれを記憶しているといいます。

この方にとって、チューニングは「恐怖の記憶」となっているようでした。

 

耳の仕事と、目の仕事。


実際に音を出す前、ピアノの音を聞いている時から目の動きが止まり、それはまるで見えない音を目で捕まえようとしているかのようでした。

目の動きが止まると、呼吸も浅くなります。同時に頭の動きも止まり、全身の動きも止まり、アンブシュアの形成に必要な表情筋なども動きにくくなり……。そこでまずは「音を聞く」というところから紐解いてみることにしました。

「最初は基準の音を聞きますよね。その時の”目の仕事”って、どんなものがありますか?」

「目の仕事ですか?…思いつかないです。特に無いと思います。」

「じゃあ、ただ開けておくのと、閉じておくのと選べますね。どちらがいいですか?」

「ちょっと閉じて聞いてみたいです。」

「じゃあ目を閉じて、ただ聞いてみましょうか。」

「……。あぁ、目を閉じるとラクです。音もなぜか聞き取りやすいですね。」

「じゃあ、次はそれで吹いてみましょうか。ただその前に、”耳の仕事”ってこの場合はどんなものでしょうね?」

「んー。音を聞くってことですよね。基準音と、自分の音を。でも聞くって言っても、勝手に聞こえますけどね(笑)。」

「そうなんですよね。耳って勝手に聞こえる。楽器の音の振動が部屋の空気を伝わって自分の鼓膜を勝手に振動させてるんですけど。そんな風に思いながら、吹いてみましょうか。」

ここでアレクサンダー・テクニークを使って全身の協調状態を取り戻しながら、次は目を開けてチューニングしていただきました。

「…初めてチューニングで自由に吹けた気がします。”部屋の空気が振動する”って思うといいみたいですね。目に力が入っていたことにも初めて気付きました。でも実際合奏の場に行ったら、やっぱり怖くなっちゃう気がします…。」  

 

“今の自分”が”過去の自分”を見る


この方がここでチューニングが上手くいった理由は、 “今やるべきこと” にただ集中していたからだと思われます。

その恐怖は過去の記憶が作り出していて、過去は確かに現在に繋がっているけれど、今の自分は過去の自分とは違う

「怖いな」と感じた時、少し”今の自分”が”過去の自分”をなだめるように、俯瞰して見てみることも役に立つかもしれません。

恐怖を感じた過去そのものは変えられませんが、今の自分を建設的にコントロールすることで、過去の”体験”を少しずつ違ったものに変化させることができるかもしれませんね。

(後日談:結局、その後は随分ラクにチューニングが出来るようになったとのことでした。)  

 

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