「正面」の思い込みが生んだ動きにくさ。
「背筋をまっすぐ」とか「胸を張って」とか、いわゆる「良い姿勢」が演奏するときにはあまり役に立たなさそうだということは、生徒さんたちにも実感していただいて浸透してきているように思います。
それにしても、楽器を習得していく上でちょっとした「思い込み」のようなものは人それぞれにあるものだと思いますが、それが思わぬ「動きにくさ」を生んでいることがよくあるものです。
今回はそんなことについて、クラリネットとアルトサックスの方とのレッスンから。
手首の動きと指の関係。
あるクラリネット奏者の生徒さんとのレッスンで。
「最近、右手の指がなんだか引っかかる感じがして、動きにくいんですよね。」
・・・見ると、確かにちょっと動きにくそうではあります。
クラリネットやオーボエ、ソプラノサックスなど身体の前で縦に構える楽器は、左手に比べて右手の方が「楽器そのもの」を支える役割が大きくなります。
そのため、痛みやトラブルが起こることが多いところでもあるのですが、この生徒さんは痛みはないとのことです。
丁寧に観察していると、キィに指を置くその瞬間にちょっとした動きがありました。
それはほんの少しですが、クリッと手首をそらせる動きでした。
「伸展」という動きです。(※動画は左手です。ごめんなさい…)
この「伸展」の動きのまま指を動かすのと、この動画の最初の状態、あるいはもう少し反対に曲げた状態で指を動かすのと、どちらが動かしやすいでしょうか?
個人差があるのでなんとも言えませんが、この「伸展」の状態だと指が動かしづらい方は多いと思います。
この生徒さんもそうでした。
しかし、キィに指を置こうとすると、どうしても「クリッ」と手首が返ってしまうのでした。
「正面」の思い込み。
「トーンホールを”真正面”に向けようと思っていますか?」
ちょっと思い切って聞いてみました。
「えっ…どうだろう。そうかな…。」
「ほんのちょっとだけ、トーンホールを左向きにして吹いてみてもらってもいいですか?」
少しだけ楽器を左向きにしていただき、そこに右手を持ってきてもらいました。
(この時点で「伸展」の動きはほぼ起きていません。)
「あれー!引っかからない!面白い!」
ずいぶん効果があったようです。(良かった。。)
“トーンホールを真正面に”という意識があったわけではなかったけど、どこかでそんな思い込みがあったかもしれない、とのことでした。
わずかな動き、大きな差。
別の日、アルトサックスの生徒さんとのレッスンで。
体の真ん中で構えると、右手の指が動きづらいとのことでした。
この方もやはり、ベルを真正面にしっかりと向けて構えてらっしゃいます。そのため、前述のクラリネットの方と同様に右の手首がかなり伸展していました。
少しベルがわずかに左向きになるように構えていただくと、こちらもかなり楽に右手指が動くようになりました。
この方の場合は「ベルはまっすぐ」と過去に教わったそうで、この楽器の向きに少し抵抗があるようでした。
サックスはベルから直接音が出ているわけではないので、少し左を向いていてもさほど問題はないのですが、気になる時は体ごと右に向くことをお勧めしました。
クラリネットの方も、サックスの方も、ご提案した動きはほんのわずかなものです。
数値にしたら1〜2センチのことだと思います。
しかしそのわずかなことが、指先の動きには大きな影響を与えるものです。
自分が(たとえ無意識にでも)選んでいる動きには全て何らかの理由があります。
その理由を少し辿り、また楽器の構造とともに身体の構造を知り、その動きにいつも少しの「遊び」のような自由度があることを、常に大切に考えていたいなと思いました。
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